相変わらずねむい。『映画はねむい』などというタイトルで雑文を綴っていると、それほど意識的ではないのだけども、どうも眠い時をあえて選んで映画を観ているような気がしてくる。映画を観る時にはむしろ眠い状態で観る方がよい、というような心持ちに段々となってきているのではないかと。これは恐ろしい。
経済協力開発機構(OECD)の21年版調査によると、日本人の平均睡眠時間は7時間22分で加盟国30カ国中で最下位なんだという記事を読む。なるほど、平均睡眠時間を下げてる側なので、最下位で申し訳ないという気持ちにさせられる。しかし7時間も寝れたら十分じゃないか!十分じゃないの?この休日、映画一本観なければ7時間は寝れそうだが。
U-NEXTで観ることのできるブニュエルの作品を観たいと思い、『ブルジョアジーの秘かな愉しみ』『欲望のあいまいな対象』『哀しみのトリスターナ』を観た。『ブルジョアジーの秘かな愉しみ』のタイトルにある『愉しみ』が、いつも『愉しみ』だったか『憂鬱』だったかで迷う。『ブルジョアジーの秘かな憂鬱』でも通りそうな気がする。
ブニュエルの後期作品での、登場人物が皆操り人形のように魂が感じられないところが楽しい。表向きはしかつめらしいのが尚一層。その代表格でブニュエル作品の顔でもあるようなフェルナンド・レイは、目の下の隈と硬く威厳ある髭で作品に説得力を持たせている。なんせエロ爺いなのである。もう彼がしゃべったり動いたりしてるだけでブニュエル作品はほぼ成立してるんじゃないかと。
ゴールデンウィークの2日目にあたる4月30日、時々雨が降る薄曇りの中、渋谷へ出てイメージフォーラムシアターで『私、オルガ・ヘプナロヴァー』を観る。4月28日に観たような気がしていたけども思い違いであった。Evernoteにつけている日記を見返して分かったのだった。青山通りを歩いていたら青学大の辺りに人だかりがあったので何かと思ったら、プロバスケの試合が始まるところだった。渋谷をホームとしているチームの試合らしい。はたしてこの人だかりに遭遇したのが映画を観る前だったか後だったか記憶がはっきりしなかったけれど、これもEvernoteの日記を見返してわかった。後だった。
『私、オルガ・ヘプナロヴァー』は全編モノクロで、音楽はクラブのシーンでちょっとかかるくらいで、やたらとタバコの煙が多いので、眠るに十分な要素が揃っていた。それでも持ち堪えた。若い頃のナタリー・ポートマンみたいな強い眼差しの女優がオルガを見事に演じていた。がさつな歩き方とヘビースモーカーぶりが印象的。実際の事件そのものは秋葉原の無差別殺傷事件を想起させる。そういえばこの事件を題材にした大森立嗣監督の『ぼっちゃん』という映画があったのを思い出す。
映画について書かれる時、まずその映画が冒頭で何を描いたのか、もしくはその映画の最後に何が起こったのかを書き出しに持ってくる人は、実は中盤ではねむっているからに違いない。
熟女というにはスレンダーで、でも顔の皮膚は相応の乾きを感じさせる40代と思われる女が「ぼくちゃん、ぼくちゃん、ママのお◯んこ見たい?」とカメラに向かって話しかけるAVを動画サイトで観る。無修正だったので画面いっぱいにそのママのそれがくっきりと映し出される。同じ無修正を謳う『食人族』でくっきりと映し出されて衝撃だったのは、性器よりもむしろ亀の解体や猿の脳みそ喰いであった。キワモノと断じて非難することは簡単だけども、はたして野蛮なのは未開地の部族なのか都市に住む現代人なのかと問いかけてくる『食人族』はむしろ今でこそ顧みられる作品だろう。という最もらしいことを言わないと、亀の解体シーンや部族の掟で不貞を働いた女を陵辱して殺めるシーンを観ている自身を正常な側に置いておけないような。じゃあ、「ぼくちゃん、ぼくちゃん」と股を開いてこちらに呼びかけてくる熟女のAVは、何を問いかけているのかという。
「月曜日にはコックを吸い、火曜日にはカントをファックし、水曜日には肛門をなめ、木曜日には幼児を可愛がり、金曜日には女の服を着、土曜日の夜は顔に小便をかけてもらう。日曜日は安息日である。何も計画せずに過ごすがよい。」マルコ・ヴァッシー『トコ博士の性実験』(小鷹信光訳)より。トコ博士は世を捨て、性の冒険者たちの協力を得て、日がな様々なセックスの実験を行っている。カルトといえばカルトなんだろうけど。たまたま私たちは多数派に属しているからなんとも思わないだけで、私たちのほうこそ成長と消費を信奉するカルトの信者なのかもしれない。
ゴールデンウィークのTODOリストに、『エマニエル夫人』3部作を観るという項目を立てていてこれを実行。ヒロインのエマニエルが、1作目でセックスに開眼し、2作目でフリーセックスの実践者として経験を積み、ところが3作目で何故か恋する乙女に先祖返りして一途なセックスに還る、という流れがなかなか興味深い。2作目がシュールな感じでこの中では好みだけども、3部作という括りでみると3作目のやけにエモーショナルで陳腐なドラマも捨てがたい。セックスを極めていこうとする話にすると、それこそエマニエルが顔に小便や大便を浴びるような展開にならざるを得ないから、彼女は新しい恋人に操を立てる道に還ったのかもしれない。